SとFのあいだで今日も迷子

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「6600万年の革命」(東京創元社) 感想

 

6600万年の革命 (創元SF文庫)

6600万年の革命 (創元SF文庫)

 

面白い?:正直微妙でした。

 

どんな本?:全宇宙中にワームホールを作る任務を負った宇宙船エリオフォラ。通常の運行はAIに任せられている。人間の乗組員はAIが判断できない問題に遭遇した時のみ、冷凍睡眠から覚醒させられる。

主人公のサンデイは任務に忠実で、船のAIとも良好な信頼関係を築いていた。

ある覚醒の時、AIに管理されていることに不信を抱く別の乗組員から、AIに対する反抗計画を持ちかけられるが…という物語。

 

著者のピーター・ワッツは「ブラインドサイト」や「巨星(短編集)」などの邦訳で知られるハードSF作家。それらの作品と本作は同じ世界観を有しているようだが、これ単体で読んでも問題はないようです。というか自分も著者の邦訳作品は全部読んでるはずだけど、全く繋がりに気づかなかった(笑)

 

まず、面白いかと言うと、なかなかそうは言い切れない。訳文のせいなのか、原文からしてそうなのか、とにかく読みづらい。

既訳作品を読んだ時にそう感じた記憶は無いので、本書のみの問題だと思われます。

 

主人公の主観視点のみで語られるので、背景説明が不足してるからというのが一つ。

AIに対して反旗を翻すのもす主人公ではなく別の乗組員で、主人公はあくまで巻き込まれる側。主人公が主体的な行動は起こさない。その反抗計画が明かされるのも物語の半分も過ぎた辺りです。なので、背景説明もなく、主人公がなんの話をしているのか要領を得ないまま、かなりのページ数を我慢して読まなくちゃいけません。

 

出だしと過程がどうあれ上手く着地できればそれなりの読後感というか、物語を読んだ、体験したという満足感を得られると思いますが、お世辞にもきちんと終われているとは思えません。

本編の後に、解説曰く「ボーナストラック」である別主人公による短編が付属していますが、これも本編を補完するものでは無く、さらに混迷を深めるものになっています。

 

結局、最初から最後まで置いてけぼり感の強い作品だったなというのが、個人的な感想です。

悪い点ばかり挙げましたが、渡邊利通氏による解説は面白かったです。自由意志と神に関する考察ですが、この短い作品でここまで読み解けるということは、単に自分の読み方が下手だった可能性も否めないのかなと思います。